最高裁判所第三小法廷 昭和26年(あ)118号 判決 1952年8月05日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人白井源喜の上告趣意第一点について。
憲法三七条三項はすべての被告事件を必要的弁護事件としなければならないという趣旨ではなく、如何なる事件を必要的弁護事件とするかは、専ら刑訴法によって決すべき問題であること、当裁判所の判例(昭和二四年(れ)六〇四号同二五年二月一日大法廷判決)に示されているとおりである。この理を推せば、ある種の事件につき、ある審級において、ある条件の下に弁護人を必要とするか否かを定めることも亦法律に委ねられているものと解しなければならない。そうだとすれば刑訴施行法五条が、新法施行の際まだ公訴が提起されていない事件について、被告人からあらかじめ書面で弁護人を必要としない旨の申出があったときは、簡易裁判所においては、新法施行の日から一年間は、新法二八九条の規定にかかわらず、弁護人がなくても開廷することができる、と規定したことを以て憲法三七条三項に違反するものということはできない。従って右刑訴施行法第五条に則ってなされた本件第一審判決並びにこれを認容した原判決には所論のような違法も違憲もなく論旨は理由がない(前記判例並に昭和二四年新(れ)五三六号同二五年四月二五日第三小法廷判決参照)。
同第二点について。
憲法三七条二項前段は、刑事被告人はすべての証人に対して審問する機会を充分に与えられる旨規定しているに過ぎないのであって、尋問の形式や時期までを規したものでないこと、当裁判所の判例(昭和二四年(つ)九三号同二五年三月六日大法廷決定)の示すとおりである。また共同被告人は共同審理の際に相互に反対訊問の機会を与えられているのであるから、他の共同被告人との関係において、その供述に証言としての証拠能力を否定すべき理由がないことも明らかである(昭和二三年(れ)七七号同二四年五月一八日大法廷判決及び昭和二六年(れ)一三三号同年六月二九日第二小法廷判決参照)。それ故本件第一審において裁判長から被告人に対し共同被告人に反対訊問を為すことを促さなかったとしても、又現実に反対訊問がなされなかった共同被告人の供述を罪証に供したとしても、憲法三七条二項に違反するといういわれはなく(昭和二六年(れ)九一九号同年一一月三〇日第二小法廷判決参照)、第一審判決を維持した原判決にも所論のような違憲はない。論旨は理由がない。
なお記録を調べてみても刑訴四一一条を適用すべき自由は認められない。
よって刑訴四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 本村善太郎)